このページの本文へ移動

わが国企業における価格マークアップの決定要因と生産性への含意

2024年8月28日
青木浩介*1
法眼吉彦*2
伊藤洋二郎*3
金井健司*4
高富康介*5

要旨

企業の価格マークアップ(販売価格と限界費用の乖離)の変動には、競争環境や価格支配力の変化が反映されるため、その長期的な傾向や決定要因について知見を深めることは、過去25年間のわが国経済・物価情勢を振り返るうえでも、有益な示唆を与え得る。本稿では、わが国企業の価格マークアップと賃金マークダウンを長期推計したうえで、価格マークアップの決定要因や生産性との関係について分析した。本稿の主な結果は以下の通りである。第一に、わが国企業は、1990年代後半以降、価格マークアップが縮小するもと、賃金マークダウンを拡大させることで収益を確保してきたことが確認された。わが国で価格マークアップが縮小傾向を辿ったことは米国と異なる傾向とみられる。第二に、わが国企業の価格マークアップの決定要因については、業種問わず投資活動が押し上げに作用してきた一方、製造業ではグローバル市場におけるわが国企業のシェア低下などから価格マークアップが縮小してきた。非製造業では、店舗密度の高まりなど競争環境の厳しさが下押し要因として作用してきた。第三に、わが国の生産性(TFP)は、価格マークアップ縮小による資源配分の効率性改善によって伸びてきた面が強い一方、技術進歩による押し上げ効果が米国対比小さいことが示唆された。

JEL 分類番号
E24、E31、J30、J42、L12

キーワード
価格マークアップ、賃金マークダウン、競争環境、生産性、資源配分

本稿の作成に当たっては、池田大輔氏、上野陽一氏、片桐満氏、開発壮平氏、中村康治氏、永幡崇氏、長野哲平氏、福永一郎氏、丸尾優士氏、若森直樹氏および多くの日本銀行スタッフから有益なコメントを頂いた。また、経済産業省から「企業活動基本調査」の調査票情報の提供を受けた。ここに記して感謝したい。なお、本稿に示されている意見は、筆者達個人に属し、日本銀行の公式見解を示すものではない。また、ありうべき誤りはすべて筆者達個人に属する。

  1. *1東京大学大学院経済学研究科 E-mail : kaoki@e.u-tokyo.ac.jp
  2. *2日本銀行調査統計局 E-mail : yoshihiko.hougen@boj.or.jp
  3. *3日本銀行調査統計局(現・金融研究所) E-mail : youjirou.itou@boj.or.jp
  4. *4日本銀行調査統計局 E-mail : kenji.kanai@boj.or.jp
  5. *5日本銀行調査統計局(現・企画局) E-mail : kousuke.takatomi@boj.or.jp

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。
商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局(post.prd8@boj.or.jp)までご相談下さい。転載・複製を行う場合は、出所を明記して下さい。