低金利環境と企業の利払い負担・生産性の関係
2024年9月30日
眞壁祥史*1
八木智之*2
要旨
わが国で長期間続いた低金利環境は、実質金利の低下を通じて、実体経済を押し上げる方向に作用したと考えられるが、その一方で、企業部門における新陳代謝の阻害や資源配分の非効率化が生じたとの指摘もみられている。
こうした点を踏まえて、本稿では、まず、業績が悪くて回復の見込みがないにもかかわらず、銀行等の支援によって存続しているとカテゴリーされる企業群――「被資金支援企業」と呼称する――の抽出を試みた。その結果、近年、わが国の被資金支援企業比率は低位で推移していることが分かった。被資金支援企業の数は限られているものの、その生産性は、他の企業と比べて低く、マクロの生産性を機械的に押し下げているといえる。そのうえで、被資金支援企業がマクロ経済に与える波及効果(資源配分の歪み)を分析したところ、近年の大企業について、その存在が他の企業の生産性を押し下げる影響までは確認できなかった。
次に、低金利環境と被資金支援企業の関係を実証的に分析した。金融システムが安定的に推移するもとで被資金支援企業の発生が抑制されたこともあり、両者の間に直接的な関係は認められなかった。ただし、近年、被資金支援企業のような極端に経営状態が悪化した先の比率が1990年代半ばから2000年代半ばにかけて低下したあと低位で推移しているのに対して、生産性が相対的に劣る状況が継続する企業の比率は横ばいで推移しており、低金利環境がその要因の一つとなっている可能性が示唆された。
- JEL 分類番号
- D22、D24、D30
- キーワード
- 資源配分、低金利、被資金支援企業
本稿の作成にあたっては、大谷聡氏、鴛海健起氏、長野哲平氏、永幡崇氏、中村康治氏および日本銀行のスタッフから有益なコメントを頂戴した。また、大久保友博氏、近松京介氏からは、本稿の作成過程においてご助力を頂いた。記して感謝の意を表したい。ただし、残された誤りはすべて筆者らに帰する。なお、本稿の内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。
- *1日本銀行調査統計局 E-mail : yoshibumi.makabe@boj.or.jp
- *2日本銀行調査統計局(現・企画局)E-mail : tomoyuki.yagi@boj.or.jp
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