わが国企業の価格設定行動とゼロインフレ・ノルム
2024年10月18日
古川角歩*1
法眼吉彦*2
大高一樹*3
要旨
過去四半世紀、わが国では企業の価格据え置き行動が拡がった。これは、わが国で「物価・賃金が上がりにくいこと」を前提とした人々の考え方や規範(ゼロインフレ・ノルム)が定着した傍証とされ、この間、わが国でインフレ率が上がりづらかった要因の一つとして解釈されてきた。本稿では、Furukawa et al.(2024)などの先行研究で指摘されている過去四半世紀のわが国ミクロ価格データにおける観測事実を整理したうえで、価格設定モデルを用いて、こうした価格据え置き行動が拡がった背景について分析した。分析の結果、1990年代後半からみられた価格据え置き割合の上昇には、既存研究が指摘するような、インフレ率の趨勢的な低下だけではなく、低インフレ下での需要曲線の屈折度合いの強まりや価格改定コストの上昇といった要因も相応に作用してきた可能性が示唆された。また、これらの要因に起因する価格改定閾値の上昇は、この四半世紀、インフレ率上昇の抑制にも作用したとみられ、とりわけ、量的・質的金融緩和(QQE)の導入以降、物価安定目標の達成を難しくしてきた要因の一つであった可能性も示された。ただし、近年、これらの要因はインフレ率が上昇するにつれて、徐々に解消してきているとみられる。
- JEL 分類番号
- E3、E31、E5
- キーワード
- 価格設定行動、屈折需要曲線、メニューコスト、戦略的補完性
本稿の作成にあたっては、青木浩介氏、星岳雄氏、Luca Dedola氏、Erwan Gautier氏、Sarah Holton氏、Chiara Osbat氏、Sergio Santoro氏、および日本銀行のスタッフから有益なコメントを頂戴した。また、総務省統計局所管の「小売物価統計」の調査票情報の提供を受けた。記して感謝の意を表したい。ただし、残された誤りは筆者らに帰する。また、本稿で示したデータは、調査票情報等を筆者らが独自に集計したものである。なお、本稿の内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。
- *1日本銀行調査統計局(現・金融機構局)E-mail : kakuho.furukawa@boj.or.jp
- *2日本銀行調査統計局 E-mail : yoshihiko.hougen@boj.or.jp
- *3日本銀行調査統計局 E-mail : kazuki.ootaka@boj.or.jp
日本銀行から
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