わが国におけるバラッサ・サミュエルソン効果について
2024年12月5日
法眼吉彦*1
來住直哉*2
要旨
実質為替レート(RER)は、一般均衡的な変数であり、その変動には生産性等の供給要因のほかにも、需要要因、ホームバイアス、リスクシェアリング、財政・金融政策など様々な要因が影響し得る。こうしたもと、RERの長期的な変動メカニズムについては、内外生産性格差の役割に着目した「バラッサ・サミュエルソン効果(BS効果)」という考え方がある。本稿では、1970年代以降のわが国RERにおいて、BS効果がどの程度みられたかを、上記の様々な要因を織り込んだ日米2か国・2部門(貿易部門・非貿易部門)の動学的確率的一般均衡(DSGE)モデルを構築・推計することで定量的に検証した。また、貿易財の一物一価が成立しないケース(Dominant Currency Pricing・Local Currency Pricing)や、部門間労働移動に制約を課したケースについても併せて確認した。検証の結果、日米RERの長期的な傾向がBS効果のメカニズムによって相当程度説明できることが確認された。すなわち、本稿のモデル分析によると、1970年代から1990年代半ばにかけてのRERの円高傾向は、先行研究で指摘されている通り、わが国貿易部門の相対生産性が対米国で上昇したことと、1985年のプラザ合意が影響したとみられる。また、1990年代半ば以降のRERの円安傾向については、わが国貿易部門の対米国でみた相対生産性が低下し、日本からみた「逆バラッサ・サミュエルソン効果」が働いてきたことが示唆された。
- JEL 分類番号
- F41、F42、C51
- キーワード
- バラッサ・サミュエルソン効果、生産性、実質為替レート
本稿の作成に当たっては、青木浩介氏、上野陽一氏、陣内了氏、開発壮平氏、中村康治氏、永幡崇氏、長野哲平氏、福永一郎氏、丸尾優士氏および多くの日本銀行スタッフから有益なコメントを頂いた。なお、本稿に示されている意見は、筆者達個人に属し、日本銀行の公式見解を示すものではない。また、ありうべき誤りはすべて筆者達個人に属する。
- *1日本銀行調査統計局 E-mail : yoshihiko.hougen@boj.or.jp
- *2日本銀行調査統計局 E-mail : naoya.kishi@boj.or.jp
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