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家計の中長期インフレ予想の形成メカニズム
―過去経験・インフレレジームの果たす役割―

English

2025年2月27日
藤井豪*1
中野将吾*2
高富康介*3

要旨

本稿では、わが国家計のインフレ予想の形成過程において、インフレ率に関する「過去の経験」や「その時々におけるインフレ率の傾向――インフレレジーム――」がどのような役割を果たしているのか、日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」の個票データを用いて定量分析を行った。その結果、過去に経験したインフレ率が低いと考えられる家計ほど、中長期的インフレ予想が統計的に有意に低い傾向にあることが分かった。この結果は、わが国においては、デフレ・低インフレが経験の大半を占める若年層を中心とした「過去に経験したインフレ率の低さ」が、長きにわたる中長期インフレ予想の低迷に影響を及ぼしていた可能性を示唆する。他方、本稿の分析からは、中長期インフレ予想と過去経験の関係は一定ではないことも示唆された。すなわち、高変動レジーム(物価変動が大きい局面)では、過去経験との関係性が弱まる一方、足もとのインフレ実感との関係性が強まることが確認された。最近の中長期インフレ予想の上昇の背景には、こうした非線形的なメカニズムが働いている可能性が考えられる。なお、これまで中長期インフレ予想の重石となっていたとみられる若年層の経験したインフレ率は、最近のインフレ率の動向を映じて急速に高まっている。こうした経験の蓄積が、先行きの中長期インフレ予想の動向にどのような影響を及ぼすか、注視していくことが重要と言える。

JEL 分類番号
C34、E31

キーワード
インフレ予想、インフレレジーム、マルコフスイッチングモデル、合理的無関心

本稿の執筆に当たっては、猪熊宏士氏、開発壮平氏、中島上智氏、長野哲平氏、および日本銀行スタッフから有益なコメントを頂戴した。ただし、残された誤りは全て筆者らに帰する。なお、本稿の内容と意見は筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行企画局(現・神戸支店) E-mail : gou.fujii@boj.or.jp
  2. *2日本銀行企画局 E-mail : shougo.nakano@boj.or.jp
  3. *3日本銀行企画局 E-mail : kousuke.takatomi@boj.or.jp

日本銀行から

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