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トークン化された資産の権利関係
―― スイス・ドイツ・フランス・米国の法整備からの示唆 ――

2025年7月18日
奥山太雅*1
杉村和俊*2

要旨

近年、「資産のトークン化」に注目が集まっており、世界中で実証実験や実取引が進んでいる。これらは、決済システムに新たな技術を導入し、デジタルならではの機能拡張等を実現しようとする取り組みとして捉えることができるが、その前提としては、権利関係を巡る法的安定性が求められる。トークン化された資産の保有や移転に関して、私法上の権利関係をどのように規律するかについては、法域毎に様々なアプローチが存在する。

本稿では、資産の保有や移転に際して求められる私法上の要素を抽出し、それらの要素がトークン化に際してどのように満たされうるかに注目しながら、スイス、ドイツ、フランス、米国で行われた法整備について分析するとともに、それらを踏まえて行われた実証実験等の取り組みについて概観した。分析の結果、ビットコインのような暗号資産と「資産のトークン化」の違いとして、前者は、意思主義による規律よりも、秘密鍵の管理者が有するトークンの処分権限の排他性に重きを置くことで、移転可能な資産としての性質を帯びるように設計されている一方で、後者は、「人に対する権利」(典型的には、債権)がトークンによって記録されたものであるという構成が前提とされている、という違いが確認された。わが国においても、こうしたトークン化された資産の特徴を踏まえ、法解釈の精緻化を通じた権利関係のいっそうの明確化を進めつつ、欧米の先例を参考とした立法的解決を検討することも一案ではないかと思われる。

JEL 分類番号
G18、G38、K11、K22

キーワード
トークン化、排他性、意思主義、対抗要件、動的安全性

本稿の作成に当たっては、臼井智博氏、小林俊氏、下田尚人氏、武田直己氏、および日本銀行スタッフから有益なコメントを頂戴した。記して感謝の意を表したい。ただし、残された誤りは全て筆者らに帰する。なお、本稿に示される内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行決済機構局 E-mail : taiga.okuyama@boj.or.jp
  2. *2日本銀行決済機構局 E-mail : kazutoshi.sugimura@boj.or.jp

日本銀行から

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