日本銀行旧小樽支店金融資料館 開館20年を迎えて(2023年6月26日掲載)
日本銀行旧小樽支店金融資料館は、2003年5月に日本銀行の広報施設として開館して以来、毎年10万人ものお客様にお越しいただき、小樽の人気観光スポットの一つに数えられています。今年、開館20周年を迎えた機会を捉えて、資料館の特徴とそれを支える職員の取り組みなどについて、ご紹介します。
金融資料館設立の概要
日本銀行旧小樽支店金融資料館は、日本近代建築の父とされ、東京駅や日本銀行本店本館を手掛けた辰野金吾と、その弟子の長野宇平治らの設計により、1912年に完成した日本銀行旧小樽支店当時の建物を活用しています。小樽支店は、小樽の発展と共に歩み、小樽の人たちから「北のウォール街」と呼ばれ、当地金融街の中心として機能しました。その後、2002年に業務を札幌支店に移管して廃止されました。長年地元に親しまれた建物が小樽で引き続き役立つものとなるよう、日本銀行の広報施設として2003年に開館したのが、金融資料館です。
金融資料館の魅力
この金融資料館の魅力として、第一に歴史ある建物の内外装をそのまま残していることが挙げられます。建築に3年もの期間が掛けられ、構造や装飾にさまざまな特徴が見られます。
外観は、出入り口周りや腰壁部分に本店本館と同様に花こう岩が用いられ、屋根には小樽港を眺望する望楼を含め5つのドームが設けられるなど、重厚な印象となっています。また、外壁の表面は、モルタル塗りにより石造り風となっていますが、その構造はレンガ造りとなっており、約245万個もの大量のレンガが使用されています。さらに、外壁を飾る18体のレリーフは、アイヌの守り神であるシマフクロウを模したものとされています。
屋根の5つのドームが特徴的な旧小樽支店金融資料館。
アイヌの守り神であるシマフクロウを模したとされるレリーフ。
内部に入ると、1階カウンターには大理石が用いられ、2階まで柱のない吹き抜け構造が目を引きます。この吹き抜け構造は、鉄骨小屋組みといわれる当時の先端技術を用いることで可能となりました。そしてこの鉄骨には官営八幡製鐵所の初期の鋼材が用いられています。屋根裏の鉄骨の構造を直接ご覧いただくことはできませんが、館内建物探訪コーナーでは写真付きパネルで詳しく紹介されています。このほか、旧小樽支店時代に支店長室として使われていた展示室エントランスの天井には、銀行券にも印刷されている日本銀行のマークの装飾が施されるなど細かなつくりを見ることができます。
旧小樽支店の窓口として使用していたカウンターには、岐阜県赤坂産の大理石が使用されている。
当時の先端技術を用いることにより実現した柱のない吹き抜けの空間。2階部分の回廊からは1階の業務エリアを見渡すことができる。
館内各所に日本銀行のロゴマークが装飾として施されている(赤枠内)。
旧小樽支店時代の支店長室の天井飾り。
正面玄関の扉。
階段手すりの支柱。
第二の魅力として、展示内容が、小樽の特色を盛り込んだものとなっていることが挙げられます。
展示エリアは、歴史関係と業務関係の二つに分かれており、このうち歴史展示ゾーンでは、明治時代以降の小樽の経済発展の流れと街並みの様子、そしてそれと共に歩んだ旧小樽支店の歴史がパネルやジオラマなどによって紹介されています。現在は落ち着いたたたずまいを見せる小樽の街が、かつて、輸出額で道内1位を誇り、また銀行店舗数で函館や札幌をも上回るなど、北海道経済・金融の中心として大いに繁栄していたことを実感でき、当時に思いをはせることができます。
業務展示ゾーンでは、日本銀行の各種業務についてのパネル紹介に加えて、支店営業当時に使用されていた金庫の内部が公開されています。金庫入り口の厚い扉を間近に見ることができるほか、1億円の銀行券の重さを体験するコーナーもあって、人気の撮影スポットになっています。
かつての銀行街を再現したジオラマ展示。
旧小樽支店で使用されていた金庫は現在展示スペースとして利用されており、中へ入ることができる。
このほか、銀行券が印刷を終えた裁断前の大判の状態で展示されています。これは、非常に珍しく、当金融資料館の目玉の一つです。
展示に関しては、常設展示のほかに、毎年異なるテーマでの特別展を開催しています。当金融資料館としては、ご来館いただく皆さまに、普段あまり金融に馴染みがなくてもご満足いただけるよう、力を入れて取り組んでいます。現在、開館20周年特別展示「日本銀行のある街並み 小樽支店と銀行街」を開催しています。この特別展では、旧小樽支店や銀行街の古い写真等を通じて当時の雰囲気を感じ取っていただきたいと思っています。
内装にも当時のさまざまな技巧が凝らされている。
幾何学的な模様が施された歴史展示ゾーン(旧営業場)の板張り天井。
優雅な曲線の装飾が施された回廊を支える金具。
階段室天井の木組み。
正面玄関内側に設けられた風除室(冬季の風雪を室内へ流入させないための小部屋)。
いつまでも親しみを持っていただくための取り組み
来館者へのガイドツアーの様子。
金融資料館がいつまでも親しんでいただけるものとなるよう、館内には職員が常駐して、運営実務を行っています。
展示エリアでは、ご来館いただいた皆さまからの質問などにお答えするほか、定期的にガイドツアーを開催するなど、初めていらした方も充実した見学時間を過ごしていただけるようサポートしています。ご来館いただいた皆さまから寄せられるさまざまなご質問に適切にお答えし、理解を深めていただけるよう、職員間で最新情報を共有することなどに努めています。
このほか、地域の重要な観光資源としての役割を意識して、観光情報誌を作成する出版社などからの要望に応じて当金融資料館関連情報の提供を行うほか、テレビやラジオの番組取材にも対応しています。また、地元行政機関や観光関連団体と協力した観光イベントへの参加などにも取り組んでいます。
明治時代に造られた平面ガラス越しに見た外の風景。円筒形に吹き膨らましたガラスを切り開き、板状にして造っていたため表面が滑らかではなく、道路標識の支柱(写真中央)が波打って見える。
建物の管理も大事な役割です。金融資料館の建物は、歴史的価値の高さから小樽市指定有形文化財に指定されており、築110年を超える歴史的建物を使用しながら保存・維持するために、きめ細かな施設管理を行っています。身近な例では、窓ガラスに使われている手吹きガラスは、今となっては代替品の入手ができないため、破損防止フィルムを張って保護し、異常が見られないか日頃の点検が欠かせません。このほかにも、米国製シャッターなど建築時に海外から輸入された部材がそのまま使われている箇所については、細心の注意を払いながら使用しています。そのうえで、施設の維持・管理や時代の変化に合わせた対応として必要がある場合には、当金融資料館を管理する日本銀行札幌支店や本店が補修工事等を実施しています。これまでも、経年劣化が見られた外壁の補修や空調機器の更新を行うなど、より安心・安全に、そして快適に見学時間を過ごしていただくための取り組みを行ってきました。バリアフリー対応については、2003年の開館当初から車いす用スロープの設置などを図っているほか、最近では正面玄関に点字ブロックを設置するなど障がいをお持ちの方が不安なくご来館いただけるよう取り組みを続けています。
2020年から続いた新型コロナウイルス感染症の影響で、当金融資料館は2020年から2021年にかけて断続的に臨時閉館を余儀なくされ、来館者数は大幅に落ち込みましたが、最近になって徐々に回復し、週末にはコロナ禍以前の賑わいを取り戻しつつあります。
当金融資料館では、これからも、築110年を超えた歴史的建物を大切に維持・管理するとともに、ご来館いただく皆さまの安心・安全に配慮しながら、親しまれる広報施設として歩んでいきたいと考えています。
当金融資料館は、入館無料、原則、予約不要でお越しいただけます。開館日は、毎週水曜日を除く毎日ですので、ぜひ足をお運びください。
- 【入館料】
- 無料
- 【休館日】
- 水曜日(ただし、祝日の場合は開館)
- 【開館時間】
- 4月~11月 9時30分~17時、12月~3月 10時~17時(入館は通年で16時半まで)
最新の情報は金融資料館HPをご覧ください。 - 【住所】
- 北海道小樽市色内1-11-16
- 【電話】
- 0134-21-1111