目次
お札に肖像として描かれた人物にはどのような人がいますか?
―日本のお札の肖像あれこれ ―
日本銀行券では現行紙幣を含めて16名、政府紙幣(注)では2名が登場しており、具体的には右のとおりです。
ちなみに日本銀行券の表面に女性の肖像が採用されたのは、現行の五千円券の樋口一葉 が初めてです。なお、政府紙幣まで含めると、右表のとおり「神功皇后像」が使われたことがあります。これは、1881年(明治14年)~1883年(同16年)に政府紙幣である「明治通宝」の偽造対策として発行された改造紙幣で、一円券、五円券および十円券の3種類がありました。
お札の肖像画に登場した人物名
|
人物名 |
日本銀行券 |
(戦前)
菅原道真、和気清麻呂、武内宿禰、藤原鎌足、聖徳太子、日本武尊
(戦後)
二宮尊徳、岩倉具視、高橋是清、板垣退助、聖徳太子、伊藤博文、福沢諭吉、新渡戸稲造、夏目漱石、樋口一葉、野口英世
|
政府紙幣 |
神功皇后、板垣退助 |
お札に肖像が利用される理由は?
大きな理由としては、2つ挙げることができます。
第1は偽造防止のためです。私たちは人の顔を見分けることに慣れているため、銀行券の肖像がほんの少しでもずれたりぼやけたりしていると違和感を持ち、偽造防止に繋がります。第2は人々に親近感を持ってもらうためです。その国で良く知られている政治家、文化人、有名人などを描き、その人物の業績などを再認識して親近感を持ってもらうとともに、銀行券自体についても認識を深めてもらう狙いがあります。
肖像の人物選定に基準はあるのでしょうか?
お札に使用される肖像の人物選定に明確な基準があるわけではありませんが、注意が払われている点はいくつかあります。例えば、(1)極力実在の人物で、業績があり知名度も高く親しみやすいなど、国民から尊敬され日本を代表するような人物であること、(2)偽造防止の観点から、簡単に複製できず、かつ人の目を引く特徴のある顔であることなどです。
眼鏡をかけている人、髭のない人
肖像の位置は右側と決まっているのですか?
日本銀行券の肖像はこれまで券表面の右側に描かれるのが殆どでしたが、C五千円券の肖像は、券表面の中央に描かれています。これは、肖像にC一万円券と同じ聖徳太子が採用されたためです。銀行券の大きさは違いますが(C五千円券の方が縦4mm、横5mm小さい)、同じような色調で同じような肖像を用いたC五千円券とC一万円券との区別を容易にするための工夫だったのです。
また、一度だけ左側に描かれたこともあります。それは、1915年(大正4年)に発行された「乙十円券」で、肖像には和気清麻呂が使われています。もっとも、銀行などでお札を勘定する際には、従来より左手でお札を持ち肖像と向き合うようにして数えるのが一般的であるため、このお札が発行された当時、「十円札だけ肖像が確認しにくく不便」との声が寄せられました。それ以降、肖像が表面左側にレイアウトされることはなくなったそうです。
日本のお札に最も多く登場した人物は?
聖徳太子で、1930年(昭和5年)に発行が始まった「乙百円券」に初めて採用されて以来、「銀行券の顔」として最も多く登場(戦前2回、戦後5回)しています。また、登場回数もさることながら、C五千円券とC一万円券は、四半世紀以上にわたって発行され(戦後に発行された日本銀行券では、発行期間が最も長い)、長年、国民に親しまれました。このため、いつのまにか国民の間に、「聖徳太子は日本銀行券の代名詞」というイメージが浸透していったようです。さらに、聖徳太子像は、いずれも発行当時の最高額券に採用されたことから、「聖徳太子=高額のお札」というイメージもあるようです。もっとも、聖徳太子像を使わない日本銀行券が発行されてから長い年月が経過しているため、こうしたイメージは徐々に薄れつつあるかもしれません。
ところで、聖徳太子像がこれだけ多くの日本銀行券に採用された理由は何でしょう? それは、(1)「十七条の憲法」を制定したり、仏教を保護したり、中国との国交回復や遣隋使の派遣により大陸文化を採り入れるなど、内外に数多くの業績を残したため、国民から敬愛され知名度も高いこと、(2)歴史上の事実を実証したり、肖像を描くためのしっかりした材料があること、が大きな理由のようです。
なお、GHQ(連合国最高司令部)は1946年(昭和21年)、かつて日本政府が決定した「肖像に相応しい人物」について、「聖徳太子以外は、軍国主義的な色彩が強いため、肖像として使用することを認めない」としました。この時、聖徳太子についても議論があったようですが、当時の一萬田 日銀総裁はGHQに対し、「聖徳太子は『和を以って貴しとなす』と述べるなど、軍国主義者どころか平和主義者の代表である」と主張して、その存続についてGHQを押し切ったと言われています。
日本のお札の肖像で最も長く使われた人物は?
歴史上の人物で、肖像として一番長く使われたのは誰なのでしょう?そして、どのような銀行券なのでしょう?それは、1889年(明治22年)5月1日から発行された「改造一円券」の武内宿禰 です。この改造一円券は、1958年(昭和33年)10月1日に発行が停止されましたが、法律上は現在も使える銀行券で、130年以上の歴史を有しています。
ちなみに、この改造一円券は、日本銀行が1885年(明治18年)9月8日から発行した「旧一円券」の改良を目的に発行されたものですが、歴史上の人物に限定しなければ、旧一円券に描かれている大黒天像が最も長く使われていることになります。
なお、通用期間が最も短かった肖像付きの銀行券は、和気清麻呂 の「ろ十円券」と聖徳太子の「ろ百円券」です。これらは、1945年(昭和20年)8月17日から発行されましたが、約6ヶ月後の翌年3月2日、新円切り替えに伴い発行が停止され、通用力も失いました(注)。
お札に登場した動物にはどんなものがありますか?
銀行券のデザインには、肖像のほか、動物や風景が採用されることが少なくありません。
1885年(明治18年)に最初の日本銀行券(旧十円券)が発行されて以来、日本銀行券には8種類の動物が登場しています。まず、通称「大黒札」と呼ばれている「旧十円券」などにねずみが、「改造十円券」(1890年<(明治23年)>)および「甲十円券」(1899年<(同32年)>)に猪が描かれています。表に猪が描かれている「改造十円券」は通称「表猪」、裏に猪が描かれている「甲十円券」は「裏猪」と呼ばれています。また、「い五銭券」(1944年<(昭和19年)>)に馬、「A一円券」(1946年<(同21年)>)にニワトリ、「A十銭券」(1947年<(同22年)>)に鳩、「C五千円券」(1957年<(同32年)>)にライオンが描かれています。そして、1984年(昭和59年)に発行された「D一万円券」には国鳥である雉が、「D千円券」には特別天然記念物に指定されている丹頂鶴が描かれています。
なお、このほか、鳳凰(古来瑞兆として尊ばれる想像上の鳥)が何回か登場しており、現行の一万円券には平等院に据えられている鳳凰像が描かれています。
ちなみに、1868年(明治元年)から1872年(同5年)にわが国政府が発行した「政府紙幣」には、鳳凰や竜、竜馬といった想像上の動物のほか、孔雀、千鳥、トンボ、貝が描かれています。
また、1938年(昭和13年)、日中戦争の拡大を背景に金属資材が不足し、貨幣の鋳造が困難となった際に制定された臨時通貨法に基づき、政府が発行した五十銭紙幣(1942年<(昭和17年)>)にはトビが描かれています。
トップページに戻る