質問金融市場調節方針の変遷を教えてください。
教えて!にちぎん
かつて日本銀行は、準備預金制度における準備率や、公定歩合を変更することにより、金融の緩和や引締めを実施していました。
その後、1994年(平成6年)に金利自由化が完了し、1995年(平成7年)からは、短期市場金利を誘導するオペレーション(公開市場操作)を通じて金融市場調節を行うようになりました。特に、1998年(平成10年)以降の金融市場調節方針では、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて○○%前後で推移するよう促す」などと、誘導目標を具体的に定めるようになりました。このうち、1999年(平成11年)から2000年(平成12年)にかけては、いわゆる「ゼロ金利政策」が実施され、金融市場調節方針は「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す」などとされました。
2001年(平成13年)には、「量的緩和政策」が開始され、金融市場調節の主たる操作目標は、無担保コールレートから日本銀行当座預金残高に変更されました。この時期の金融市場調節方針は、「日本銀行当座預金残高が○○兆円程度となるよう金融市場調節を行う」などと定められました。2006年(平成18年)に量的緩和政策が解除されると、金融市場調節の操作目標は、再び無担保コールレート(オーバーナイト物)となりました。
2010年(平成22年)に開始された「包括的な金融緩和政策」のもとでは、金融市場調節方針は「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度で推移するよう促す」と定められました。加えて、日本銀行は、こうした金利の操作目標とは別に、「資産買入等の基金」を通じて、資金の貸付(固定金利方式の共通担保資金供給オペレーション)および資産の買入れ(長期国債、短期国債、CP、社債、ETF、J−REITなど)を行いました。
2013年(平成25年)には、「量的・質的金融緩和」が開始され、金融市場調節の主たる操作目標は、無担保コールレートからマネタリーベースに変更されました。金融市場調節方針は、「マネタリーベースが、年間約○○兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う」などと定められました。また、併せて、資産買入れの方針が定められ、例えば長期国債の買入れについては、「保有残高が年間約○○兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行う」などとされたほか、CP、社債、ETF、J−REITなどの買入れも継続されました。
2016年(平成28年)1月に導入された「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」のもとでは、こうした金融市場調節方針や資産買入れ方針が維持されたほか、補完当座預金制度が改正され、政策金利として、日本銀行当座預金のうち「政策金利残高」に-0.1%のマイナス金利を適用することが決定されました。
同年9月の金融政策決定会合において導入された「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとでは、金融市場調節方針は、長短金利の操作についての方針を示すこととなりました。同会合では、具体的に、短期の政策金利については、「日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する」と定められました。また、長期金利の操作目標について、「10年物国債金利が概ね現状程度(ゼロ%程度)で推移するよう、長期国債の買入れを行う。買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80 兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営する。」などと定められました。このほか、CP、社債、ETF、J−REITについては、引き続き、資産買入れ方針が定められています。
2018年(平成30年)7月の金融政策決定会合においては、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の持続性を強化するため、金融市場調節や資産買入れをより弾力的に運営していくための措置が決定されました。金融市場調節方針や資産買入れ方針は、それまでと基本的に変わっていませんが、例えば、長期金利の操作方針については、「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。」と定められました。
2020年(令和2年)4月の金融政策決定会合においては、新型コロナウイルス感染症への対応として、「金融緩和の強化」を決定しました。その中の措置の一つとして、債券市場の流動性が低下しているもとで、政府の緊急経済対策により国債発行が増加することの影響も踏まえ、債券市場の安定を維持し、イールドカーブ全体を低位で安定させる観点から、当面、長期国債、短期国債ともに、さらに積極的な買入れを行うこととしました。これに伴い、長期金利の操作方針については、「10 年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする。」と定められました。
2021年(令和3年)3月の金融政策決定会合においては、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検 [PDF 4,217KB]を行いました。その結果、2%の「物価安定の目標」を実現するため、持続的な形で、金融緩和を継続していくとともに、経済・物価・金融情勢の変化に対して、躊躇なく、機動的かつ効果的に対応していくことが重要であると判断し、いくつかの政策対応を決定しました。その中の一つとして、長期金利について、「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」という操作方針のもとで、平素は柔軟なイールドカーブ・コントロールの運営を行うため、その変動幅は±0.25%程度であることを明確化しました。
2022年(令和4年)12月の金融政策決定会合においては、緩和的な金融環境を維持しつつ、市場機能の改善を図り、より円滑にイールドカーブ全体の形成を促していくため、長短金利操作の運用を一部見直すこととしました。具体的には、「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」という操作方針を維持したうえで、国債買入れ額を大幅に増やしつつ、長期金利の変動幅を、従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に拡大することなどを決定しました。
2023年(令和5年)7月の金融政策決定会合においては、経済・物価を巡る不確実性がきわめて高いことに鑑み、長短金利操作の運用を柔軟化し、上下双方向のリスクに機動的に対応していくことで、この枠組みによる金融緩和の持続性を高めることとしました。具体的には、長期金利の操作目標は「ゼロ%程度」、変動幅は「±0.5%程度」に維持したうえで、変動幅の位置づけを「目途」として、長短金利操作を従来よりも柔軟に運用することなどを決定しました。
関連ページ
それぞれの政策導入時の公表文については、各年の金融政策に関する決定事項等をご覧ください。