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決済と決済システムを理解するためのキーポイント《基礎編》テーマ6.決済の準備

この章のキーワード:
「クリアリング」、「セトルメント」、「勝ち・負け」、「流動性供給銀行」
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クリアリングとセトルメント

人々や企業の間で行われる決済である「リテール決済」では、おさつを取引相手に引渡す、あるいは、銀行に対して預金口座の振替を指示すれば決済が完了します。

ところが、銀行間の決済である「ホールセール決済」の場合、いきなり中央銀行当座預金を通じて決済するのではなく、決済のための事前準備を行うことがあります。これを清算(英語では「クリアリング」)と呼びます。これに対して、おさつ、銀行預金、中央銀行当座預金といった「おかね」をやりとりして最終的に債権・債務を解消することを決済(英語では「セトルメント」)と呼びます。

一般に決済は「取引」→「セトルメント」という2段階で行われますが、「取引」→「クリアリング」→「セトルメント」という段階を踏んで行われることがあります。

クリアリング

決済のための事前準備である「クリアリング」を行う場所を「クリアリング・ハウス」と呼びます。「クリアリング」は、各銀行同士で1件1件バラバラに決済を行うのではなく、「皆の受けと払いを差し引きして、効率的な決済を行おう」という仕組みです。具体的には、個別の銀行毎に「支払いの総額」と「受取りの総額」を計算します。さらに、それらの差し引き額を算出し(これを「ネッティング」と言います)、個別銀行が「負け銀行」なのか「勝ち銀行」なのかを算出します。

受取総額 > 支払総額 => 勝ち銀行

受取総額 - 支払総額 = 勝ち額

支払総額 > 受取総額 => 負け銀行

支払総額 - 受取総額 = 負け額

例えば手形交換所もクリアリング・ハウスの1つです。 手を広げている人のイラスト

クリアリングが終われば、次はセトルメントのプロセスです。「クリアリング・ハウス」の中央銀行当座預金を通じて全ての「負け銀行」と「勝ち銀行」の「負け額」、「勝ち額」の振替が行われます。

中央銀行に預けてある負け銀行の口座から、クリアリングハウス(例えば手形交換所)の口座を通じ、勝ち銀行の口座に、負け額、勝ち額の振替が行われることを表すイメージ図

クリアリングの性質

「クリアリング・ハウス」は、大量の少額取引を効率的に決済するための準備に利用されますが、「クリアリング・ハウス」がネッティングを行っているので、仮に銀行が1行でも負け額の決済に失敗すると「クリアリング・ハウス」に持ち込まれていた全ての取引の決済ができなくなってしまいますから、危険な仕組みでもあります。

安全なクリアリングの条件

「クリアリング・ハウス」が行うネッティングについては、その危険性を小さくするよう、一定の条件を満たした上で行うことが必要です。それは、(1)金額の大きい取引をネッティングしないこと、(2)ネッティングした結果を他の取引と混ぜて再びネッティングしないこと、(3)異なる種類の取引を同じ1つの仕組みでネッティングしないこと、(4)当日決済すべき多数の取引を1回にまとめてネッティングせず、小分けにして行うこと、です。

クリアリングの安全性向上策

しかし、これらの条件を満たしたからといって、決済できない銀行が現れる可能性が消えるわけではありません。ある銀行が何らかの理由で負け額を決済できない場合、この銀行に代わって負け額を立て替え払いする銀行(「流動性供給銀行」と言います)が必要となります。流動性供給銀行は、予め国債など担保を預かっておき、立て替え払いしたおかねが戻ってこない時には、担保を売り払っておかねを取り返します。

手を広げている人のイラスト 流動性とはおかねのことです。