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金融政策ルールとターム・プレミアム(要旨)*1

2005年10月
一上 響*2

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。
商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

以下には日本語の(要旨)を掲載しています。

なお、全文は英語のみの公表です

  1. *1本稿の作成にあたり、James D. Hamilton氏から多大な協力およびコメントを得た。また、青木浩介氏、Marjorie Flavin氏、Alex Kane氏、木村武氏、Bruce Lehmann氏、Allan Timmermann氏、Tuck Yun氏他、カリフォルニア大学サンディエゴ校、日本銀行におけるセミナー参加者から有益なコメントを得た。記して感謝したい。ただし、本稿の記述に関して、あり得べき誤りは全て筆者に帰する。論文に記述された見解は、著者独自のものであり日本銀行のものではない。
  2. *2調査統計局(現金融市場局)

要旨

ファイナンスの分野では、(1)名目金利の期間構造の傾きはなぜ平均的に正なのか、(2)実質金利の期間構造の傾きは平均的に正なのか負なのか、という点について、実証を中心に研究が進められてきたが、これまでのところ十分な合意が得られていない。本稿は、上記の問に対して、ニューケインジアン・モデルをベースにしたマクロ・ファイナンスの手法を用い、ターム・プレミアムの解析解を導出することによって理論分析を試みたものである。

経済理論上、ターム・プレミアムは、二つの要因によって決定される。第一の要因は、家計の限界効用と債券価格の共分散の影響である。例えば、選好ショックの発生により家計の限界効用が高まった場合、消費が増加し景気は過熱するが、中央銀行はこれに金利引き上げで対応するため、債券価格が下落する。このように、限界効用が高いときに債券価格下落で債券保有者である家計の消費余力が圧迫される相関関係は、家計にとって好ましくなく、それを保有する見返りに正のプレミアムが要求される。第二の要因は、コンベクシティの影響である。債券価格は、金利水準に対して非線形であり、金利上昇時の低下幅よりも、金利低下時の上昇幅の方が大きい。従って、金利のボラティリティが上昇した場合、債券価格の期待値が高まる。これは、債券保有者にとって好ましいことなので、ターム・プレミアムの低下要因となる。

本稿のモデルでは、これら二つの要因に基づいたプレミアムが、金融政策ルールを含めたニューケインジアン・モデルのパラメータによって規定されるため、パラメータの変化がターム・プレミアムにどのような影響を及ぼすか分析できる。本稿で得られた主要な結論は次の通りである。

金融政策ルールにおけるGDPギャップへの反応度が高い場合——すなわち、中央銀行が選好ショックなど需要変動に伴う景気変動の抑制に積極的な場合——、上記第一の要因が、第二の要因を凌駕するため、名目ターム・プレミアムが正となり、名目金利の期間構造の平均的な傾きも正となる。同様の理由で、実質金利の期間構造の平均的な傾きも正となる。また、期間構造の傾きの程度は、フィリップス・カーブの傾きにも依存する。フィリップス曲線の傾きが急な場合、景気変動に対するインフレ率の変動が大きくなるため、中央銀行は名目金利を大きく変化させる必要がある。つまり、名目金利のボラティリティが上昇する結果、上記第二の要因による影響が大きくなり、名目金利の期間構造の傾きはフラット化していく。